
FAX送付状の法的側面!個人情報保護と機密情報取扱いの実務ガイド【2025年最新版】
公開日:2025年9月3日 更新日:2025年9月3日
はじめに
ビジネス環境において、FAX送付状は単なる添付書類を超えて、法的責任と情報セキュリティの重要な要素として位置づけられています。個人情報保護法、電子帳簿保存法、不正競争防止法などの法制度により、FAX送付状の適切な取扱いは企業の法的コンプライアンスにおいて不可欠となっています。
本記事では、実在する法的根拠と信頼できる情報源に基づいて、FAX送付状に関わる法的要件と実務的な対応方法について解説します。
第1章:個人情報保護法とFAX送付状
1.1 個人情報保護法の基本原則
個人情報保護委員会が発行する「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」によると、FAX送信においても個人情報の適正な取扱いが求められています。
出典: 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
URL: https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
1.2 FAX送信における留意点
個人情報保護委員会のガイドラインでは、FAX送信において以下の点に留意する必要があるとされています:
1. 送信前の本人確認: 送信先と送信者の本人確認を徹底し、誤送信を防止する
2. 送信先の確認: 送信先のFAX番号や受信者の情報を正確に確認し、誤送信を防止する
3. 送信内容の適正化: 必要最小限の個人情報のみを送信し、過剰な情報の送信を避ける
4. 送信後の管理: 送信したFAXの内容や送信記録を適切に管理し、漏えいや不正アクセスを防止する
5. 送信の安全措置: FAX送信の際には、送信途中の漏えいリスクを考慮し、暗号化や手順の厳守などの安全措置を講じる
1.3 個人情報漏洩事故の実態
川崎医療福祉学会誌に掲載された研究「医療機関における患者情報の取り扱い事故に関する経年変化」では、FAX誤送信による個人情報事故が継続的に発生していることが報告されています。この研究は、個人情報保護法制定後10年間の分析を行い、紙媒体による事故(FAX誤送信、誤送付・交付)の実態を明らかにしています。
出典: 品川佳満、橋本勇人「医療機関における患者情報の取り扱い事故に関する経年変化-個人情報保護法制定後10年間の分析」川崎医療福祉学会誌, 2014
https://core.ac.uk/download/pdf/51479307.pdf
第2章:電子帳簿保存法とFAX送付状
2.1 電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法は、税関連の帳簿や書類の電子保存について定める法律で、1998年7月に制定されました。2022年1月に改正され、2024年1月から電子取引データの保存が完全に義務化されています。
出典: 国税庁
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/08.htm
2.2 FAXと電子取引の関係
FAXが電子帳簿保存法の「電子取引」に該当するかどうかは、送受信の形式によって決まります:
電子データで受信する場合
電子データで受信可能な複合機やFAXの場合は、電子帳簿保存法の「電子取引」に該当します。そのため、受信したFAXデータは一定の要件を満たして保存しなければなりません。
紙に出力される場合
紙のみで受信する従来型FAXは電子取引に該当せず、紙での保存が可能です。
一方、電子データで受信できる機器を備えている場合は、紙に出力しても電子取引に該当します。
2.3 電子取引の保存要件
電子取引として保存される場合、以下の要件を満たす必要があります:
真実性の確保
以下のいずれかの要件を満たす必要があります:
・取引相手からタイムスタンプが付与された電子データを受領する
・電子データを受領後すぐにタイムスタンプを付与する
・データの訂正や削除の記録が残るシステム、もしくはデータの訂正や削除ができないシステムを利用する
・訂正・削除防止のための事務処理規定を備えつける
可視性の確保
以下のすべての要件を満たす必要があります:
・電子計算機処理システムの概要書を備えつける(自社開発のプログラムを使用する場合のみ)
・ディスプレイやプリンターなどの見読可能装置を備えつける
・検索機能を確保する
2.4 タイムスタンプの要件
「受領後約7営業日以内、遅くとも2ヶ月以内」の部分は、国税庁の資料では「最長約2か月と概ね7営業日以内」です。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf?utm_source=chatgpt.com
第3章:不正競争防止法と機密情報の保護
3.1 営業秘密の保護
不正競争防止法は、企業の営業秘密を保護する重要な法的枠組みを提供しています。経済産業省の資料によると、営業秘密として保護されるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります:
1. 秘密管理性: 秘密として管理されていること
2. 有用性: 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること
3. 非公知性: 公然と知られていないこと
経済産業省の公式サイト
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html
3.2 FAX送付状における機密性表示
営業秘密として保護されるためには、FAX送付状に適切な機密性表示を行うことが重要です。具体的には、「機密」「秘密」「社外秘」などの表示を送付状の目立つ位置に記載し、受信者に対して当該情報が営業秘密であることを明確に伝える必要があります。
第4章:FAX送付状の実務的な作成方法
4.1 基本的な記載項目
コクヨの@Tovasコラムによると、FAX送付状に記載する項目は決まっていません。ただし、送付先に正しく情報を伝えるには、以下の項目を設けることがおすすめです。:
1. 送信先情報: 会社名、部署名、担当者名
2. 送信者情報: 会社名、部署名、担当者名、連絡先
3. 送付内容: 送付する書類の概要
4. 総ページ数: 表紙を含む全体のページ数
5. 日付: 送信年月日
出典: @Tovas「FAX送付状の書き方と例文を紹介」
URL: https://www.attovas.com/column/6656.php
4.2 宛名の記載方法
CHINTAIの解説によると、FAX送付状には送付先の会社名・部署名・担当者名の記載が必須です。宛名が記載されていないと、本来届けたい人に書類や情報が届かなくなるおそれがあります。
出典: CHINTAI「FAX送付状で記載すべき基本項目や注意点」
URL: https://journal.chintai.net/cool-knowhow/cover-letters/
4.3 総ページ数の重要性
FAXは途中でページが欠けることがあるため、総ページ数の記載は非常に重要です。「総ページ数:○ページ(表紙含む)」などと明記し、相手が表紙を含めた全体のページ数を認識できるようにします。
第5章:実務的な対応策
5.1 送信前の確認手順
個人情報や機密情報を含むFAX送付状の送信においては、以下の確認手順を確立することが重要です:
1. 送信内容の確認: 送付する書類の内容確認、機密性レベルの判定、個人情報の有無の確認
2. 送信先の確認: 受信者の身元確認、FAX番号の正確性確認、受信者の情報取扱い権限の確認
3. 送信方法の確認: 使用するFAX機器の選定、送信時間の調整、送信後の確認方法の決定
4. 承認手続きの実施: 機密情報や個人情報を含む送付状については、送信前に上司や情報管理責任者の承認を得る
5.2 送信時の安全措置
FAX送信時の安全措置として、以下の点に注意が必要です:
・暗号化機能の活用: 最新のFAX機器やクラウドFAXサービスの暗号化機能を活用
・送信ログの記録: 送信日時、送信先、送信者、送信内容の概要などの詳細な記録を残す
・アクセス制御: FAX機器の使用者を限定し、認証機能を活用
・複数人チェック: 送信前に複数の担当者が内容と送信先を確認
5.3 受信確認と事後管理
FAX送信後の受信確認と事後管理として、以下の手順を実施します:
1. 受信確認の実施: 送信後は速やかに受信者に連絡を取り、FAXが正常に受信されたことを確認
2. 取扱い指示の確認: 受信者に対して、送付状に記載された機密性レベルや取扱い制限について改めて説明
3. 送信記録の保管: 送信ログ、送付状の控え、受信確認記録などを適切に保管
4. 定期的な管理状況の確認: 送付した機密情報が適切に管理されているかを定期的に確認
第6章:事故発生時の対応
6.1 事故対応の基本手順
FAX送信に関わる事故が発生した場合の対応手順:
1. 事故の発見と初期対応: 誤送信や情報漏洩が発覚した場合は、直ちに送信を停止し、関係者への連絡を行う
2. 誤送信先への連絡: 誤送信先に対して速やかに連絡を取り、事情を説明して謝罪するとともに、送信された書類の返却または廃棄を依頼
3. 社内報告: 事故の詳細を上司や関係部門に報告し、被害の拡大防止と再発防止のための対策を検討
4. 外部への報告: 個人情報漏洩事故の場合は、個人情報保護委員会への報告や、影響を受けた個人への通知が法的に義務付けられている場合がある
5. 再発防止策の実施: 事故の原因分析を行い、システムの改善、手順の見直し、従業員教育の強化などの再発防止策を実施
まとめ
FAX送付状の法的側面について、実在する法的根拠と信頼できる情報源に基づいて解説しました。個人情報保護法、電子帳簿保存法、不正競争防止法などの法制度を遵守し、適切な送付状の作成と管理を行うことで、企業の法的リスクを最小化し、情報セキュリティを確保することができます。
特に、2024年1月から完全義務化された電子帳簿保存法への対応は、電子データでFAXを送受信する企業にとって重要な課題となっています。適切な保存要件を満たし、真実性と可視性を確保することで、法的要件を満たした運用が可能になります。
参考文献
1. 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
2. 経済産業省「平成27年不正競争防止法の改正概要(営業秘密の保護強化)」
3. @Tovas「FAX送付状の書き方と例文を紹介」
4. 品川佳満、橋本勇人「医療機関における患者情報の取り扱い事故に関する経年変化-個人情報保護法制定後10年間の分析」川崎医療福祉学会誌2014