【2025年最新】法人の税務調査確率は1.9%!対象に選ばれる9つの条件と対策
公開日:2023年11月15日 更新日:2025年11月27日
「ある日突然、税務署から連絡が…」多くの経営者が一度は不安に思うのが税務調査ではないでしょうか。自社は大丈夫だと思っていても、どのような基準で調査対象が選ばれているのか、その確率はどのくらいなのか、気になる点は多いはずです。
本記事では、国税庁が2024年11月に公表した最新の統計データに基づき、法人に対する税務調査の実態を徹底解説します。調査対象に選ばれやすい法人の特徴から、調査の種類、そして万が一に備えるための対策まで、経営者が知っておくべき情報を網羅的にご紹介します。この記事を読めば、税務調査に対する漠然とした不安を解消し、適切な準備を進めるための具体的な指針を得られるでしょう。
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法人に対する税務調査の確率は約1.9%

結論から言うと、すべての法人が税務調査を受けるわけではありません。国税庁が公表した「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、令和5事務年度(2023年7月〜2024年6月)に実施された法人税の実地調査件数は59,000件でした。
同年度の法人税の申告件数は約317万6千件であるため、単純計算での調査確率は約1.9%となります。これは、およそ50社に1社の割合で、50年に1度調査を受けるかどうかの水準です。
しかし、この数字だけを見て安心するのは早計です。税務署は限られた人員の中で効率的に調査を行うため、「調査必要度の高い法人」を優先的に選定しています。そのため、特定の条件に当てはまる法人は、調査を受ける確率が平均よりも大幅に高まります。
例えば、売上規模の大きい上場企業などでは、数年に一度という高い頻度で調査が行われるのが一般的です。一方で、設立間もない中小企業や、長年赤字が続いている企業などは、調査の優先度が低くなる傾向があります。このように、税務調査の確率は、企業の規模や状況によって大きく異なるのが実情です。また、過去の推移を見ると、平成元年以前は法人の実調率が10%(10年に1回)でしたが、申告件数の増加と取引の高度情報化・国際化により、年々減少傾向にあります。
税務署が調査に入る条件とは?対象に選ばれやすい9つの特徴

では、具体的にどのような法人が「調査必要度が高い」と判断されるのでしょうか。国税庁は明確な選定基準を公表していませんが、これまでの調査事績や専門家の見解から、以下のような特徴を持つ法人が調査対象に選ばれやすいと考えられています。
1. 売上や利益が急激に伸びている
前年度と比較して売上や利益が急増している場合、「申告内容に誤りや漏れがないか」という観点から税務署の注目を集めやすくなります。特に、新しい事業の開始や時流に乗ったビジネスで急成長した場合は、経理体制が整っていないケースも多く、調査対象になりやすい傾向があります。業績が急拡大すると、経理体制が追いつかず記帳の誤りが発生したり、節税対策が不十分で申告漏れを疑われたりするリスクも高まります。
2. 業績が長年低迷している、または赤字続き
「赤字の会社には税務調査は来ない」と思われがちですが、それは誤解です。長期間にわたって赤字申告が続いている場合、売上を意図的に除外したり、架空の経費を計上したりしていないか、といった観点で調査対象となることがあります。また、繰越欠損金の利用が正しいかどうかの確認も調査のポイントです。
3. 不正が発見されやすい業種
現金商売が中心の業種は、売上の把握が難しく、不正が行われやすいとされています。そのため、飲食業、小売業、建設業、美容・理容業、廃棄物処理業などは、国税庁から「重点業種」として調査される傾向にあります。
4. 同業他社と比較して利益率が異常に低い
税務署は、業種ごとの平均的な利益率(所得率)を把握しています。申告された利益率がその平均値から大きく外れて低い場合、売上除外や経費の水増しを疑われる可能性があります。例えば、同業他社の平均所得率が15%であるにもかかわらず、自社が5%しかない場合などは、その理由を説明できる根拠が必要です。
5. 海外取引がある
国外の関連会社との取引は、利益移転(移転価格税制)やタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)など、複雑な税務論点が多く含まれます。令和5事務年度の調査事績では、海外取引に係る申告漏れ所得が2,870億円にも上っており、税務署が重点的に調査していることがわかります。[1] 海外取引のある法人、特に多額の送金や取引がある場合は、専門の調査官(国際税務専門官)による調査の対象となりやすいです。
6. 消費税の還付申告をしている
輸出取引や多額の設備投資を行った場合、支払った消費税が還付されることがあります。しかし、この還付申告は不正が行われやすいため、税務署は特に厳しい目でチェックします。令和5事務年度には、消費税還付申告法人に対して総額390億円(うち不正還付81億円)が追徴されています。[1] 還付申告を行うと、高い確率で調査対象になると考えておきましょう。
7. 設立後3〜5年が経過した
法人の設立から数年間は、経営を軌道に乗せるための期間として、調査が比較的少ない傾向があります。しかし、3〜5年が経過し、事業が安定してくると、「申告内容が適正か」を確認するために初回の税務調査が行われることが多くなります。税務署は「一度は確認しておこう」という意図で、設立後一定期間経過した法人を選定する傾向があります。
8. 過去に税務調査で指摘を受けたことがある
一度税務調査で申告漏れや不正を指摘されると、その後の申告が正しく行われているかを確認するため、数年後に再び調査対象となる可能性が高まります。小さな計算ミスや処理の誤りでも、頻繁に発生していると「管理体制に問題がある」と評価され、継続的に注視される可能性があります。
9. 内部告発や第三者からの情報提供があった
元従業員や取引先などから、不正会計に関する情報が税務署に提供された場合、その信憑性が高いと判断されれば、優先的に調査が行われます。投書や内部告発があった法人は、税務調査の選定において最も優先度が高いとされています。
税務調査の種類と流れを理解する
税務調査には、大きく分けて「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。ほとんどの調査は任意調査ですが、その違いと調査の基本的な流れを理解しておくことが重要です。
任意調査と強制調査の違い
法人が受ける税務調査の99%以上は「任意調査」です。これは、事前に税務署から調査の連絡があり、納税者の協力を得て行われる調査を指します。しかし、「任意」という言葉から想像されるような甘いものではなく、正当な理由なく調査を拒否したり、虚偽の答弁をしたりすると罰則が科される可能性があるため、誠実な対応が求められます。
一方、「強制調査」は、国税局査察部(通称マルサ)が、特に大口で悪質な脱税が疑われる納税者を対象に、裁判所の令状を得て強制的に実施する調査です。これは予告なしに行われ、刑事罰に発展する可能性もある非常に厳しいものです。
税務調査の基本的な流れ
1. 事前通知
通常、調査の1〜2週間前に、税務署から顧問税理士または会社に直接、調査日時や場所、目的などが電話で連絡されます。この段階で、調査対象となる税目(法人税、消費税など)や対象期間(通常は過去3〜5期分)が伝えられます。
2. 日程調整
都合が悪い場合は、合理的な理由があれば日程の変更が可能です。例えば、決算期末で多忙な時期や、経営者が海外出張中などの場合は、日程の調整を申し出ることができます。顧問税理士と相談し、十分な準備期間を確保した上で日程を調整しましょう。
3. 事前準備
過去3〜5期分の帳簿書類を準備します。具体的には、総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳、請求書及び領収証、契約書、議事録などが必要です。税理士と打ち合わせを行い、想定される質問への回答などを準備しておくと安心です。
4. 調査当日
通常、2〜3日間にわたって行われます。初日の午前中は、事業内容や組織図、経理の状況などについてヒアリングがあり、午後から帳簿書類の確認が始まります。調査官は、売上の計上時期、経費の妥当性、在庫の管理状況、交際費の内容など、様々な観点から質問を行います。
5. 調査終了後の対応
調査で問題点が指摘された場合、税務署からその内容について説明があります。内容に納得できれば「修正申告」を提出し、追加の税金と加算税を納付します。納得できない場合は、税務署が「更正」という行政処分を行いますが、これに対して不服申し立てをすることも可能です。
税務調査に備える5つの対策

税務調査で重要なのは、慌てず、誠実に対応することです。そのためには、日頃から適正な会計処理を行い、帳簿や証憑書類をきちんと整理・保存しておくことが最大の防御策となります。
1. 正確な記帳と月次決算の実施
日々の取引を正確に記帳し、月次で決算を行うことで、申告内容の正確性が高まります。また、月次決算を行うことで、経営状況をタイムリーに把握でき、早期に問題点を発見・修正することができます。
2. 証憑書類の整理保管
請求書や領収書、契約書などの証憑書類は、法人税法上7年間(欠損金が生じた事業年度は10年間)の保存義務があります。これらの書類を日付順やカテゴリ別に整理し、すぐに取り出せる状態にしておくことが重要です。
3. 税法改正のキャッチアップ
税法は毎年改正されるため、最新の税制に対応した会計処理を行う必要があります。顧問税理士と定期的に情報交換を行い、自社に影響のある改正点を把握しておきましょう。
4. 業種特有の会計処理の理解
建設業であれば工事進行基準、不動産業であれば収益認識のタイミングなど、業種特有の会計処理を正しく理解し、適用することが重要です。税務調査では、業種特有の論点について重点的に質問されることが多いため、事前に理解を深めておきましょう。
5. 顧問税理士との連携強化
税務調査の連絡が来た場合は、速やかに税務の専門家である税理士に相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、安心して調査に臨むことができ、不利益な結果を避けることにも繋がります。また、日頃から顧問税理士と密にコミュニケーションを取り、疑問点はその都度解消しておくことが大切です。
まとめ:日頃からの備えが最大の防御
本記事で紹介したように、法人に税務調査が入る確率は約1.9%と考えられますが、企業規模や業種などによって実施される可能性が高くなることもあります。特に申告内容に不審な点がある場合や、過去に不正を指摘された法人は、税務調査の対象になりやすいので注意が必要です。税務調査でミスを指摘されないためにも、経理業務を正しく行ってまいりましょう。
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参考文献
国税庁(2024) 令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要
ON税理士法人(2024) 税務調査の確率ってどのくらい?




