【完全ガイド】電子取引を分かりやすく解説!電子帳簿保存法の保存要件や対応方法
公開日:2024年6月12日 更新日:2024年7月22日
昨今では、見積もりや注文、請求など日々の取引をメールやWebサイトなどを通じて行う機会が多くなりました。紙の書類でのやり取りが不要になることも多く、スムーズな取引が実現可能です。ただし、インターネットを通じて取引をする場合は電子取引に該当するため、電子帳簿保存法の要件に従った対応が求められます。
本記事では、電子取引について分かりやすく解説します。電子帳簿保存法の保存要件や対応方法も解説するので、ぜひ参考にしてください。
TOPICS
電子取引とは
電子取引とは、デジタル技術を利用して取引情報を交換し、商品やサービスを売買することです。昨今では業務効率化などの観点から、電子取引を活用する企業が増えています。以下、電子取引の概要を解説します。
電子取引とは電子的に取引情報をやり取りする方法
電子取引とは、取引情報を紙や郵送などの手段を使わずに電子的な方法で送り、商品やサービスの販売または購入をすることです。通常はメールやWebサイト、クラウドサービスなどにより、インターネットを介して行われます。
電子取引は様々な文書の即時交換が可能となることから、取引のスピードや効率性を高められるというメリットがあります。インターネットがあれば世界中のどこからでもアクセスできるため、昨今浸透しつつあるテレワークとも相性が良いと考えられます。
電子取引では、注文書(発注書)や契約書、送り状、見積書、領収書、請求書などの情報も電子的に取り交わすことが多く見られます。取引書類はインターネットを通じて、発行・受領できます。
電子取引に該当する取引
電子取引に該当する取引のよくある例としては、PDFファイルにした請求書や領収書といった書類を電子メールで送付・受領するケースが挙げられます。システムを導入し、PDFファイルで送受信するケースはよく見られるようになりました。
Webサイト上で請求書や領収書などのデータをアップロード・ダウンロードすることや、発行側が請求書や領収書などの内容をWebサイトに表示し、受領側がその画面を保存することなども、電子取引に該当する取引です。他にも、以下のような例があります。
・クラウドサービスを通じて、電子請求書や電子領収書を授受する
・EDIシステムを通じて、契約書や発注書、納品書、請求書などの電子データをやり取りする
・請求書や領収書などのデータをインターネットFAXで送受信する
・請求書や領収書などのデータをDVDで授受する
電子取引に該当するケースは幅広いため、今一度整理しましょう。
電子帳簿保存法における電子取引・対象書類
電子帳簿保存法における電子取引とは、電子データでやり取りした請求書や領収書などの取引情報のことです。電子帳簿保存法の改正により、電子取引に該当する場合は、電子帳簿保存法の要件に従った対応が求められることになりました。電子帳簿保存法に違反した場合は罰則を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
電子帳簿保存法の対象となる書類・データは、以下のとおりです。
対象となる書類・データ | 具体例 | 詳細 |
国税関係帳簿 | 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳など | オリジナルの電子データもしくは電子計算機出力マイクロフィルムで保存 |
決算関係書類 | 貸借対照表、損益計算書、試算表など | 出力した紙、またはオリジナルの電子データもしくは電子計算機出力マイクロフィルムで保存 |
取引関係書類 | 見積書、請求書、納品書、領収書など | 紙で受領した書類は、オリジナルの紙もしくはスキャンした電子データ 電子取引の場合は電子帳簿保存法に沿って保存 |
詳しくは後述しますが、電子帳簿保存法は2022年に改正され、電子取引で受け取ったデータの電子的な保存が義務化されました。2年間の宥恕(猶予)期間を経て、2024年1月からは全面義務化されています。
電子帳簿保存法の改正により何が変わった?
電子帳簿保存法の改正によって電子取引データの保存は義務化され、企業はさまざまな対応を求められるようになりました。以下、電子取引データ保存の義務化の概要と、対応すべき点を解説します。
※参考:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜」
電子取引データの保存が義務化
前述のように、2022年1月の電子帳簿保存法の改正により、電子取引データの保存が義務化されました。従来は電子データを紙に出力しての保存が認められていましたが、改正後は原則として電子データのまま保存しなければなりません。
改正当初は紙で保存している企業も多く、電子保存するための準備が間に合わないという声もあったため、2024年12月末まで宥恕期間が設けられていました。期間内では、従来のように紙での保存も可能でしたが、2024年1月からは完全義務化されています。
ただし、宥恕期間の廃止と同時に、新しく猶予措置が整備されました。2024年1月以降も、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合など、一定の要件を満たせば電子保存が猶予されます。
電子取引データの保存義務化への対応
前述のとおり、電子取引データの保存は義務化されており、電子データ保存に移行するための対応が求められます。対応の方法としては、以下の3ステップです。
・社内の電子取引状況を確認する
・電子データの保存方法を決める
・システムの導入を検討する
それぞれのステップを詳しく解説します。
社内の電子取引状況を確認する
電子取引データの保存義務化に対応するためには、現在、社内でやり取りされている電子取引の状況を把握する必要があります。電子取引は広く普及しており、普段は意識せずに行っていることも少なくありません。
例えばメール添付で送付した請求書やインターネットバンキングによる振り込み、スマートフォンアプリによる決済など、基本的に紙を使用しない取引は電子取引に該当します。社内で行っている取引が電子取引に該当するかどうか、一つずつ確認しましょう。
電子取引は書類を発行した側、受領した側のどちらも対象となるため注意が必要です。発行した側は控えとして保存し、受領した側は受け取った電子データをそのまま保存する必要があります。
電子データの保存方法を決める
社内でやり取りされている電子取引の状況を把握できたら、次に電子データの保存方法を決めます。電子的に受け取った書類は電子データとして保存するという原則に沿って、保存方法を検討しましょう。
例えば電子メールで取引情報をやり取りした場合は、電子メールの本文を保存する必要があります。そのままメールフォルダに入れておくだけでなく、電子取引に該当するメールの内容をPDFに変換して画像として保存することも可能です。
Webサイトに表示された取引情報は、ダウンロードするか、画面をスクリーンショットして保存します。それぞれの保存場所やファイル名など、社内ルールを決めておくと、確認が必要になったときにすぐに参照できて便利です。
システムの導入を検討する
電子データの保存方法を決めたら、必要に応じてシステムを導入することも検討しましょう。電子データの保存は電子帳簿保存法の要件に従って保存しなければなりません。そのため、電子帳簿保存法に対応したシステムを活用するのがおすすめです。
システムを導入すると、データの検索や共有、更新が簡単に行えます。業務効率が向上し、時間とリソースの節約につながるでしょう。特に膨大な量の書類を扱う企業であれば、システムの恩恵をより受けやすくなります。
また多くの場合システムにはセキュリティ対策が施されているため、不正アクセスやデータ漏えいから保護できることも、システム導入のメリットです。それぞれのメリットについて詳しくは、本記事の終盤で改めて解説します。
電子帳簿保存法における電子取引の保存要件
電子帳簿保存法における電子取引の保存要件は、大きく分けて「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つです。以下でそれぞれの保存要件の詳細を確認しましょう。さらに電子データ保存の対応が間に合わない場合の対処法も解説します。
真実性の確保と可視性の確保
電子データを保存する際は、「真実性の確保」と「可視性の確保」が必要です。それぞれを担保するためには、電子帳簿保存法の要件を満たさなければなりません。具体的には以下のとおりです。
保存要件 | 保存方法 |
真実性の確保 | ・タイムスタンプ付与済みの取引情報を受領する ・取引情報を受領した後に速やかにタイムスタンプを付与し、情報を確認できるようにする ・訂正事実を確認できる、もしくは訂正自体ができないシステムを使って取引情報の受領・保存をする ・正当な理由のない訂正・削除の防止に関する事務処理規定を定め、それに沿った運用をする 上記のいずれかを満たす |
可視性の確保 | システムの概要書を備え付ける |
電子計算機(パソコン)やプログラム、ディスプレイ、プリンタおよびそれらの説明書を備え付け、明瞭な状態で速やかに出力できるようにする | |
「日付」「取引金額」「取引先」での検索ができるようにする |
ただし、可視性の確保のうち、検索要件については以下の条件を満たせば不要となります。
・2期前の売上高が1,000万円以下の方
・税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができる
電子データ保存の対応が間に合わない場合の対処法
電子取引における電子帳簿保存法に対応した電子データの保存義務は、2024年1月から完全義務化されました。しかし、まだ対応できていない事業者もあるかもしれません。
電子帳簿保存法に対応した電子データ保存の対応が間に合わなくても、「電子取引データ保存の一定のルールに従って電子取引データを保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合」は、電子データを保存しておくだけで良いとされています。
例えば人手不足によって対応ができない場合や、人手は足りているが資金がなく、システムの整備が間に合わなかった場合などが該当します。特に中小企業は、大企業に比べてさまざまなリソースが不足しており、対応できない場合も珍しくないでしょう。
ただし所轄税務署長の承認を得た上で電子帳簿保存法に対応していない場合でも、税務調査の際に「電子取引データのダウンロードの求め」や「電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求め」に応じられるようにしている必要があります。上記に対応するためには、電子取引のデータを削除しないように注意しましょう。
※参考:国税庁.「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
電子取引の要件に含まれる事務処理規程とは?
電子取引の真実性の確保の要件には、事務処理規程を定め、遵守することが含まれています。事務処理規程とはルールの明確化や業務の効率化を目的とした規定のことで、国税庁が公開しているサンプルを参照しながら作成するのがおすすめです。以下、事務処理規程の必要性や作成方法、作成時のポイントを詳しく解説します。
事務処理規程の必要性
事務処理規程とは、電子取引データを電子帳簿保存法の要件に従って保存するために社内で定める規定のことです。真実性の確保の要件として、不当な訂正削除を防止するために事務処理規程を定め、遵守することが求められます。
事務処理規程を定めることで、電子取引データの保存に関するルールが明確化され、保存にかかる作業もスムーズに進められます。電子データを保存するためにシステムを導入し、業務を効率化する際には、欠かせないものとなるでしょう。
また事務処理規程はタイムスタンプ付与や訂正削除履歴の管理に対応できない場合に必要とされます。業務に役立てられるだけでなく、電子データ保存のルール面でも、必要性が高いといえます。
事務処理規程の作成方法
事務処理規程の作成は、オリジナルで作成する方法と、サンプルを元にして作成する方法の2つがあります。オリジナルで作成すればより自社のニーズに近いものを作成しやすいですが、初めて作成する際には適していません。
国税庁のホームページでは、事務処理規程のサンプルが参考資料として公開されているため、基本的にサンプルを元に作成することがおすすめです。ただし、サンプルのテンプレートをそのまま使用するのではなく、自社に合った内容に適宜修正する必要があります。
法人の場合、事務処理規程に記載する主な項目は次のとおりです。
・目的
・適用範囲
・管理責任者
・電子取引の範囲
・取引データの保存
・対象となるデータ
・運用体制
・訂正削除の原則禁止
・訂正削除を行う場合
事務処理規程を作成する際のポイント
事務処理規程を作成する際には、以下のポイントに注意する必要があります。
・電子取引の範囲を明確にする
・責任者を明確にする
・訂正削除する場合のルールを定める
それぞれのポイントを詳しく解説します。
電子取引の範囲を明確にする
事務処理規程を作成する際のポイントは、国税庁が公表しているサンプルにも記載されているように、電子取引の範囲を明確にすることです。自社の取引状況を把握した上で、具体的な範囲を分かりやすく記載します。
電子取引に該当するものは、例えば電子的に授受した取引関係書類(見積書や請求書など)、インターネットバンキングの利用明細、クレジットカードの利用明細、ICカード決済の明細などさまざまです。前述のように、電子データ保存を導入する最初の段階で、自社の状況を整理しておく必要があるでしょう。
電子取引の対象となるデータを明確にしておくことで、データの保存漏れや削除などのミスを防止できます。
責任者を明確にする
電子取引データ保存を事務処理規程に従って適切に運用するためには、管理責任者と処理責任者を決めておく必要があります。事務処理規程のサンプルを参考に所属部署名や役職名を記載し、責任者が明確に分かるようにしておきましょう。
なお事務処理規程に記載した責任者が人事異動や退職などにより、運用している途中で変更されるケースも少なくありません。管理責任者や処理責任者が変わる場合は、事務処理規程の記載内容も適宜更新する必要があります。
訂正削除する場合のルールを定める
事務処理規程を作成する際、訂正削除する場合のルールを定めることも重要なポイントです。
電子取引データを訂正・削除することは、原則として禁止されています。ただし、やむを得ない理由で、訂正や削除をする場合もあるでしょう。こうした事態に備えて、訂正削除をする場合のルールを明記しておかなければなりません。
なおサンプルでは、以下の内容を管理責任者へ提出し、所定の手続きに従って行うこととされています。
1.申請日
2.取引伝票番号
3.取引件名
4.取引先名
5.訂正・削除日付
6.訂正・削除内容
7.訂正・削除理由
8.処理担当者名
上記のように訂正削除の方法や条件を具体的に示しておくことで、正当な理由のない訂正や削除を防止できます。
電子取引データの保存にはシステムの導入がおすすめの理由
電子取引データの保存には、システムの導入がおすすめです。具体的な理由は以下の3点です。
・電子帳簿保存法に対応しやすい
・業務を効率化できる
・セキュリティの向上につながる
それぞれのポイントを詳しく解説します。
電子帳簿保存法に対応しやすい
電子帳簿保存法に対応したシステムを導入すれば、本記事でも紹介した電子帳簿保存法の要件に従った保存が可能です。
具体的には、電子取引データの保存要件とされている「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たせます。検索性が高いため、システムによって保存した電子取引データを瞬時に呼び出すことができ、税務調査の際にも税務署員の求めに迅速に応じられるでしょう。
業務を効率化できる
システムの導入は、業務効率化の観点でもおすすめです。システムを導入すれば、電子帳簿保存法の要件に従って業務をスムーズに進められます。ミスの軽減につながり、トラブル防止にも効果が期待できるでしょう。
例えば紙で発行していた見積書や請求書などの書類をシステム上から送付し、そのまま保存をすることも可能です。紙を出力したり郵送したりする手間がなくなる上、テレワークにも対応しやすくなるため、労働環境の改善にもつながると期待できます。
セキュリティの向上につながる
システムを導入すれば、電子取引データの保存に関わるセキュリティを高められることも重要なポイントです。例えばユーザーごとにアクセスレベルを設定し、必要な人だけが重要な情報にアクセスできるようにすれば、情報漏えいのリスクを下げられます。
またシステムを介するとタイムスタンプの付与により処理日時が記録され、データの改ざんや削除ができなくなります。不正防止にもつながり、組織全体のセキュリティレベルを高めるのに役立つでしょう。
まとめ
電子取引を行った場合は、電子帳簿保存法の要件に従って電子取引データを保存する必要があります。電子取引データは原則データのまま保存する必要があるため、削除しないように注意が必要です。また電子帳簿保存法に対応するためには、事務処理規程の作成やシステム導入などを進める必要があります。
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