電子帳簿保存法に対応した見積書の保存方法・注意点を解説
公開日:2024年6月12日 更新日:2024年7月22日
電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取った見積書を紙で出力しての保存はできなくなりました。見積書を電子データで受け取った場合は、電子データの状態で保存しなければなりません。
また、電子データで保存する際は電子帳簿保存法の要件に従う必要があります。本記事では、電子帳簿保存法に対応した見積書の保存方法を解説します。電子データで保存する際の注意点も解説しますので、参考にしてください。
TOPICS
見積書は電子帳簿保存法の対象書類に含まれる
電子帳簿保存法は、電子データとして書類を保存する際のルールを定めた法律で、1998年の施行以降何度か改正されています。以下、電子帳簿保存法の概要と対象となる書類を詳しく解説します。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、法人または個人事業主が、電子的な形式で帳簿や財務諸表を保存する際の規定を定めた法律です。日々のやり取りで発生する取引情報を、電子データで適切に管理することを目的としています。
電子帳簿保存法では、電子帳簿の保存期間や保存形式、保存方法などが定められています。法律自体は1998年に施行されたものですが、2022年1月に改正され、一部の要件が緩和されました。
一方で、電子取引データの電子保存が義務化され、企業としての対応が求められる部分もあります。適切に対応するためには、まず電子帳簿保存法の対象となる書類はどれなのかを理解しなければなりません。
※参考:国税庁.「電子帳簿保存法の概要」
電子帳簿保存法の対象となる書類
電子帳簿保存法の対象書類には、会計帳簿や財務諸表などの会計情報が含まれます。貸借対照表や損益計算書などの決算関係書類も、電子帳簿保存法の対象となる書類です。メールやクラウド取引などで電子的にやり取りした電子取引情報も対象となっています。
昨今では、業務効率化などの観点で、取引書類を電子化する例もよく見られるようになりました。例えば電子データで見積書を受け取った場合は、さまざまな要件を満たしつつ、適切に保管しなければなりません。
電子帳簿保存法に対応した見積書の保存方法
電子帳簿保存法に基づいて見積書を適切に保存する際は、データを紙で受け取ったか、それとも電子的な形式で受け取ったかによって方法が異なります。以下、紙で受け取った場合と電子データで受け取った場合に分けて、それぞれの正しい保存方法を解説します。
紙で受け取った場合
見積書を紙で受け取った場合は、紙のまま保存するか、スキャナで電子化した上で保存するかのいずれかの方法を選びます。以下、それぞれの保存方法を解説します。
紙のまま保存
紙で受け取った見積書は、従来のようにそのまま紙で保存できます。取引月や取引先ごとに整理してファイリングすれば、後で必要になった際に、目当ての書類を容易に見つけられるようになります。
ただし紙の書類は保管するためのスペースを用意しなければなりません。保存状態によっては、時間がたつにつれて劣化する恐れもあります。また検索性が電子データに比べて劣る、物理的なダメージや災害で消失してしまう可能性があるなど、紙のまま保存するリスクはさまざまです。
さらに近年は、電子的に取引書類をやり取りするケースが多くなっているため、紙保存と電子データ保存が混在してしまう恐れもあります。こうしたリスクを回避するために、次で紹介するスキャナ保存を検討することをおすすめします。
スキャナ保存
紙の見積書をスキャナで電子化すれば、電子データとして保存できます。スペースの節約や検索性の向上、データの安全性の強化などが主なメリットです。
紙のデータ化は社内で行うことも可能です。例えば見積書を複合機でスキャンしたり、スマートフォンのカメラで撮影したりして電子データ化する方法があります。企業規模によっては担当者の手に負えないケースもありますが、膨大な紙をデータ化する場合でも、代行サービスへの依頼によって対応可能です。
ただしスキャナ保存をする際は、電子帳簿保存法で定められた要件に従って保存しなければなりません。詳しい要件は、後の項目で詳しく解説します。
電子データで受け取った場合
見積書を電子データで受け取った場合は、紙に出力せずに電子データのまま保存しなければなりません。以前は電子データを印刷して紙で保存できましたが、2022年の電子帳簿保存法の改正により認められなくなりました。
電子データで受け取るケースとして、具体的には見積書をメール添付で受け取った場合や、クラウド上でダウンロードした場合などが該当します。またメールで見積金額をやり取りした場合も電子取引とみなされるため、メールの内容を電子データで保存しなければなりません。
スキャナ保存と同様、電子取引データの保存も電子帳簿保存法の要件に従う必要があります。
見積書を電子データで保存するときの要件
見積書を電子データで保存するときの要件は、スキャナ保存の場合と電子取引の場合で異なります。それぞれの要件を事前に確認しておきましょう。ここでは、それぞれの要件を詳しく解説します。
スキャナ保存の場合
紙の見積書をスキャナ保存する場合は、電子帳簿保存法の保存ルールに従わなければなりません。保存ルールは重要書類か一般書類かで異なります。見積書は、電子帳簿保存法では一般書類に分類されます。
・重要書類:契約書、納品書、請求書、領収書など
・一般書類:見積書、注文書、検収書など
一般書類の保存要件は、以下の表のとおりです。
項目 | 説明 |
入力期間の制限 | 入力期間の制限なく入力できる ※一般書類向けのルールを採用する場合は、事務の手続(責任者、入力の順序や方法など)を明らかにした書類を備え付ける必要がある |
一定の解像度による読み取り | 解像度200dpi相当以上 |
カラー画像による読み取り | 白黒階調(グレースケール)でも可 ※一般書類向けのルールを採用する場合は、事務の手続(責任者、入力の順序や方法など)を明らかにした書類を備え付ける必要がある |
タイムスタンプの付与 | 総務大臣が認定する業務に係るタイムスタンプが必要 ※スキャナデータが変更されていないことについて、保存期間を通じて確認することができ、課税期間中の任意の期間を指定し、一括して検証できるものに限る ※入力期間内にスキャナ保存したことを確認できる場合には、このタイムスタンプの付与要件に代えることができる |
ヴァージョン管理 | 訂正・削除の事実や内容を確認できる、もしくは訂正・削除の自体ができないシステムを使う |
見読可能装置等の備付け | 14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイ、カラープリンタ、それに関する操作説明書を備え付ける ※白黒階調(グレースケール)で読み取った一般書類は、カラー対応でないディスプレイおよびプリンタでの出力も可 |
速やかに出力すること | 整然とした形式である、書類と同程度に明瞭である、拡大または縮小して出力できる、4ポイントの大きさの文字を認識できる |
システム概要書等の備付け | システム概要書、システム仕様書、操作説明書などの各種書類を備え付ける |
検査機能の確保 | スキャナデータについては、次の要件による検索ができるようにする 1.取引年⽉日その他の日付、取引金額および取引先での検索 2.日付または金額にかかる記録項目について範囲を指定しての検索 3.2つ以上の任意の記録項目を組み合わせての検索 ※税務職員による質問検査権に基づくスキャナデータのダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は1と2の要件は不要になる |
電子取引の場合
電子データで受け取った見積書は、電子帳簿保存法に従って「真実性の確保」「可視性の確保」の要件を満たす必要があります。それぞれの詳細は、以下の表のとおりです。
保存要件 | 内容 |
真実性の確保 | ・タイムスタンプ付与済みの取引情報を受領する ・取引情報を受領した後にタイムスタンプを付与し、情報を確認できるようにする ・訂正事実を確認できる、もしくは訂正自体ができないシステムを使って取引情報の受領・保存をする ・訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに沿った運用をする 上記のいずれかを満たす |
可視性の確保 | ・モニター・操作説明書等の備付け ・検索機能(「日付」「取引金額」「取引先」での検索)の確保 上記の全てを満たす |
2024年1月からは、以下の条件を満たした場合、電子取引データを保存しておくだけでも良いことになりました。
・電子取引データ保存の一定のルールに従って電子取引データを保存できなかった場合でも、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合
・税務調査等の際に、「電子取引データのダウンロードの求め」「電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求め」にそれぞれ応じられる場合
※参考:国税庁.「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
2022年電子帳簿保存法改正の重要ポイントをもう一度整理
ここで、2022年電子帳簿保存法改正の重要ポイントをもう一度整理しておきましょう。具体的には以下の6つの項目です。
・電子取引のデータ保存が義務化された
・事前承認が不要になった
・検索要件が緩和された
・タイムスタンプ要件が緩和された
・適正事務処理要件が廃止された
・罰則規定が強化された
それぞれ詳しく解説します。
電子取引のデータ保存が義務化された
前述のとおり、取引書類を電子データで受け取った場合、電子データでの保存が義務化されました。従来のように紙で出力しての保存は認められなくなったため、取引書類の電子データを削除しないように注意する必要があります。
2022年に義務化されたものの、準備不足により対応が間に合わない事業者も多く、政府は2年間の宥恕(猶予)期間を設けていました。具体的には2023年12月末までであり、2024年1月からは全面義務化されています。
※参考:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました〜 令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要 〜」
事前承認が不要になった
2022年電子帳簿保存法改正では、事前承認が不要になったことも重要ポイントです。改正前は、取引書類を電子データのまま保存する場合、事前に所管税務署長の承認が必要でした。電子データを受け取った際はもちろん、紙で受け取ったものをスキャナ保存する場合も同様です。
改正後は事前承認が不要となったため、社内の準備が整い次第、電子保存に切り替えられます。
検索要件が緩和された
検索要件が緩和されたことも、2022年電子帳簿保存法改正の重要ポイントです。改正前は、勘定科目や、その他書類の種類ごとに重要と思われる項目が要件に含まれていました。
改正後の検索要件は緩和され、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つに限定されています。具体的な改正事項は区分によって異なりますが、特に帳簿の保存は大幅な要件緩和が実施されました。
具体的な改正事項は次のとおりです。
区分1(電子帳簿保存):
・税務署長の事前承認制度の廃止
・優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の整備
・最低限の要件を満たす電子帳簿についても電磁的記録による保存等が可能
区分2(スキャナ保存):
・税務署長の事前承認制度の廃止
・タイムスタンプ要件、検索要件等の緩和
・適正事務処理要件の廃止
・スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置の整備
区分3(電子取引):
・タイムスタンプ要件および検索要件の緩和
・適正な保存を担保する措置の見直し
タイムスタンプ要件が緩和された
紙をスキャンして保存する際の、タイムスタンプ要件が緩和されたことも、2022年電子帳簿保存法改正の重要ポイントです。具体的には、付与期間が最長約2カ月とおおむね7営業日以内に変更されました。
またシステムやクラウドサービスの導入により、電子データの訂正や削除をした場合にその事実と内容を確認できるようになっていたり、訂正や削除自体ができない状態だったりすれば、タイムスタンプは不要となっています。電子帳簿保存法の改正によって、システム導入の重要度がより高まったといえるでしょう。
適正事務処理要件が廃止された
電子帳簿保存法の改正後は、適正事務処理要件が廃止になりました。適正事務処理とは、相互けん制、定期的な検査、再発防止策の社内規程整備のことです。適正事務処理要件の主な目的は、スキャナで保存する前の紙書類に何らかの改ざんが行われないようにすることです。
重要書類のスキャナ保存にあたり必要とされていましたが、電子帳簿保存法の改正により、書類の区分に関係なく不要となりました。
罰則規定が強化された
電子データの保存要件が緩和された一方、適正な保存を担保するために罰則規定が強化されています。取引書類のスキャナ保存や電子データ保存に関する不正が発覚した場合は、重加算税が10%加重されることになりました。
重加算税とは、申告漏れや虚偽の申告など悪質な違反行為に対して課される税金です。通常の税額に加えて徴収され、さまざまな税務違反を防止し、公正な納付の促進を目的としています。
※参考:財務省.「加算税の概要」
見積書の電子データを保存する際の注意点
見積書の電子データを保存する際の注意点は、以下の3点です。
・見積書は7年または10年保存しなければならない
・見積もり時のメール本文を保存するケースもある
・契約に至らなかった見積書の保存は明文化されていない
最後に、3つの注意点について一つずつ解説します。
見積書は7年または10年保存しなければならない
見積書の電子データを保存する際、7年または10年保存しなければなりません。具体的には、法人税法で7年、欠損金が生じた事業年度は10年と定められています。
厳密には、確定申告期限の翌日から7年間、または10年間保存しなければなりません。発行日から7年または10年ではない点に注意が必要です。法人税の申告期限は、決算日から2カ月後と定められているため、自社の申告期限や決算日を確認しておくと良いでしょう。
※参考:国税庁.「帳簿書類等の保存期間」
※参考:国税庁「確定申告書の提出期限」
見積もり時のメール本文を保存するケースもある
見積書の電子データを保存する際、見積もり時のメール本文を保存するケースもあります。取引によっては、詳細な見積書を発行しておらず、見積もり時の情報がメール本文にしか記載されていない場合もあるかもしれません。
具体的には、商品名や数量、金額、取引先などの取引情報がメール本文のみに記載されているケースが対象です。メール本文を保存する際も、電子データのやり取りに含まれるため、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
契約に至らなかった見積書の保存は明文化されていない
見積書を受領したものの、契約に至らなかった場合の見積書の保存については明文化されておらず、それぞれの判断にゆだねられています。
そもそも契約にならなければ、その後の取引が発生しないため、保存は不要とする見方もあります。膨大な量の見積書を発行する企業の場合、それを一つずつ保存するとなると、担当者に大きな負担がかかります。
ただし、企業によっては今後の参考として保存しておくケースもあるため、社内ルールに従うことが無難です。
まとめ
見積書の保存は、紙で受け取った場合と電子データで受け取った場合で対応が異なります。紙で受け取った場合は紙のまま保存するか、スキャナ保存をする方法があります。一方、電子データで受け取った場合は、電子データのまま保存しなければなりません。
スキャナ保存、もしくは電子データのまま保存する場合は、電子帳簿保存法の要件を確認しつつ適切に保存する必要があります。
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@Tovasマーケティング担当(コクヨ株式会社)